契約結婚は日本ではまだ馴染みが薄い結婚の形のひとつだとえます。
けれども最近では、ドラマ「逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)」なども放送されて話題となり、一般的にも知られるようになってきました。
事前に契約書を作成したうえで結婚生活をスタートさせるのが契約結婚だということは、なんとなく知っている方も多いでしょうが、契約書をどうやって作るのか、一般的な結婚と何が違うのか、などについてはっきりとわかっている人はそう多くはないでしょう。
この記事では、契約結婚とは何か、どんな形の結婚で何が必要なのか、などについて詳しく解説していきます。
婚前契約書の書き方や契約結婚をするうえで注意すべき点、メリット・デメリットなどもまとめましたので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。
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契約結婚の定義
契約結婚とは一般的に、「結婚生活のあらゆる事がらについて、結婚前に夫妻の間で取り決めをした上で結婚をすること」をいいます。
これは法律に規定されているわけではありませんので、現状ではあくまで個人の意思や考えでとられる結婚の形の一つ。
お互いが都合の良いように、合理性を求めてあらかじめ決め事をしておくということですね。
二人で思い通りの決め事を作ればいいのですが、口約束では通常の結婚と変わりないため、あらかじめ法律事務所や行政書士などの監修の元で「婚前契約書」としてまとめてもらうなどします。
婚前契約書の特徴
結婚してから「結婚契約書」を作成する方法もあるのですが、こちらは「婚前契約書」に比べて法的拘束力が弱く取り消しやすいのがポイント。
法律上、「夫婦間でした契約は、婚姻中これを取り消すことができる。」となっており、結婚契約書に記載したことは取り消しが比較的容易なのです。
これに対して結婚前や婚約時に締結した契約は、法律上は他人間の契約と同様に取り扱われるため、原則として契約をどちらか一方から取り消すことはできません。
すなわち、「婚前契約書」は「結婚契約書」に比べて取り消しが難しく、より効力の強い契約書であると言えるのです。
欧米ではセレブを中心に婚前契約書を作成している人たちも多く、彼らが離婚する際には契約書に記載された多額の慰謝料が支払われるということから話題にのぼることも多いですね。
日本の結婚事情
日本国内の結婚事情を見てみると、婚姻届を提出して法律上の婚姻関係を結んだうえで実際の結婚生活を送っている人が多数派ではあります。
「結婚するために契約書を取り交わすなんて相手のことを信頼できていないんじゃないの?」という否定的な意見もまだまだ根強く、契約結婚という考え方がまだまだ浸透しているとは言えません。
特に日本人の結婚に対する考え方は、男女平等とは言いながらも細かい部分では不平等になっている場合も多く、結婚制度の窮屈さの中で戦っている人、諦めている人、などさまざまです。
契約結婚は、そのような状況の解決策として有効かもしれません。
また最近では婚姻届を提出せず、実態としては結婚の形をとる事実婚のカップルも増えてきました。
「別居婚」「週末婚」「友情結婚」など様々な結婚の形を表す言葉も増え、結婚自体が多様化していくなかで、そのひとつである契約結婚も今後増えていくと考えられます。
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「契約結婚って事実婚のことじゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、契約結婚と事実婚は違います。
事実婚とは「結婚生活を送っているけれども、婚姻届を提出しないため法律上夫婦とは認められない状態」のこと。
いっぽう、契約結婚とは前述のように「結婚生活のあらゆる事がらについて、結婚前に夫妻の間で取り決めをした上で結婚をすること」であり、婚姻届を提出するかどうかは二人の選択次第。
ですから、「契約結婚であり法律上も結婚状態にある」「契約結婚であり事実婚である」どちらもありえるのです。
婚前契約書の作成方法と注意点
一般的に、契約結婚をするときに必要だと考えられていることは以下の2点です。
- 2人の話し合いで決めた約束事を記載した婚前契約書(プレナップ)を作成する
- 婚前契約書の作成は法律のプロによる監修を受けたうえで行う
婚前契約書面に記載する事項
書面には次の3つの項目を必ず記載します。
- 妻・夫になる人の名前、住所、印鑑
- 入籍日前の契約日の記載
- 結婚生活での約束事項
契約日は入籍日より前の日付で!
契約日は、必ず入籍日より前の日付で作成しましょう。
入籍後に作成された書類は婚前契約書とみなされないため、裁判などで効力を発揮できない可能性が高くなります。
法律に違反していないか
2人の約束ごとは法律に反しない範囲で記載することが大切です。
通常は、結婚後の金銭管理や、離婚の条件など生活全般にわたって数多くの項目が記載されます。
二人で作った書類を婚前契約書として取り交わすだけで、契約結婚は成立するでしょう。
ただし何か問題が起きたときに、法律にのっとった契約書でなければその契約自体が無効となってしまう場合があり、そうなるとせっかく契約書を作成したのに無意味だっということにもなりかねません。
そんな事態に陥らないためにも、婚前契約書が法律にのっとってぬかりなく作成されているのかをプロにチェックしてもらっておくことは必要だといえるのです。
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契約書に記載する約束事項は、大きくまとめると次のような内容が多いです。
- 愛について、夫婦関係のあり方について
- お金について
- 生活について
- 子供について
- 親族との関わり方について
- 離婚について
具体的には結婚後以下のような問題に直面したときのことを考えて、条件を決めていくといいかもしれませんね。
- 相手の浮気が心配
- 義理両親との同居を避けたい
- 親戚づきあいが大変そう
- 家事や育児の分担をはっききりさせたい
- 結婚後、どちらか一方に家計を握られたくない
- 結婚後、出産や育児があっても仕事を続けていきたい
- 離婚するときにもめたくない
書いても無駄なこと
ただし、以下のような内容については、婚前契約書に書いても証拠として認められません。
書いても無駄になるので、書かないほうがよいでしょう。
- 相手の相続について
- 子供の親権について
- 第三者が絡む内容
このように、婚前契約書はあくまで夫婦となる二人がお互いについて約束を交わすものですから第三者を巻き込むことはできませんし、たとえ二人の子供であっても子供の人生に関わる大切な事柄について親が勝手に決めることはできないのです。
婚前契約書のサンプル
婚 姻 契 約 書
夫 (以下、「甲」という。)と妻 (以下、「乙」という。)は、順境にあっても逆境にあっても、健康なときも病気のときも、愛と誠意を尽くし、 互いにその育ってきた環境を尊重し、生涯の伴侶として助け合うことを約束し、本契約を締結する。
第1条 (総則)
甲及び乙は、これまでの生活や習慣、職業、価値観などを尊重し合い、各々が今までに築き上げた生活をさらに充実させ、また、発展させられるよう協力し合う。
第2条 (生活場所)
夫婦生活の場所は、甲及び乙が合意した場所で送るものとする。ただし、双方の合意がある場合または甲及び乙の間で紛争が生じた場合その他双方にとって必要な事情がある場合は、一定期間別居することができる。
第3条 (家事分担)
家事は甲及び乙が各々平等に分担し各人が行うものとする。ただし、双方の合意がある場合その他双方にとって必要な事情がある場合はこの限りではない。
第4条 (財産)
夫婦の財産については、以下の区別に従うものとする。
1 甲及び乙各々が婚姻前から所有する財産は各人の固有の財産とする。
2 甲及び乙が婚姻後、共同生活の上で取得した財産は甲及び乙の共有財産とする。
第5条 (生活費)
夫婦生活に要する生活費等は、甲と乙の収入に応じて公平に分担する。ただし、家事分担の割合に偏りがある場合は、従事する家事の程度が大きいほど生活費の分担を減らすことができる。
第6条 (子の教育)
子どもの養育は、甲及び乙が十分な協議の上で実施し、生活費、教育費、娯楽費その他子どもの養育に要する費用は、甲と乙の収入に応じて公平に分担する。
第7条 (親族との同居)
甲及び乙は、互いの親族と同居する義務を負わない。ただし、介護を要する等同居を要する事情が生じた場合は十分な協議をし、思いやりをもった行動をするよう心がける。
第8条 (離婚)
次に定める場合には、民法の定める「婚姻を継続しがたい事由」があるものとみなす。
1 本契約の条項のいずれかに違反したとき
2 借金、家庭内暴力、不貞行為等による経済的、精神的に解決が困難なトラブルが発生しまたは発生するおそれがあるとき
第9条 (適用除外)
本契約が婚姻後に締結されたものであっても、夫婦間の契約の取消権(民法754条)は、本契約に適用しないものとする。
上記内容にて契約が成立したことの証として、本書面を2通作成し、各自署名押印し、各々1通ずつを保有する。
契約成立及び作成日 : 平成 年 月 日
甲 氏 名 印
乙 氏 名 印
住 所
住 所
引用元: ラプラージュ綜合法務事務所HP
契約結婚、法律上問題ない?
偽装結婚とは違う?
契約結婚とよく勘違いされてしまうのが、不法滞在や相続、認知絡みで籍を入れる偽装結婚です。
この偽装結婚と間違われてしまうと、契約結婚自体があまり良い印象を与えませんよね。
簡単に言ってしまえば偽装結婚は、男女の間に結婚する意思がない結婚のこと。
あくまでも、自分達の利益のために婚姻届を出して結婚していると見せかけているものです。
それと比較して契約結婚は、たとえ期限付きだとしても夫婦として同居し、結婚生活の意思があるものであり、違法ではありません。
このように、契約結婚と偽装結婚は全く違うものです。
契約結婚だからといって、卑屈になったり後ろめたい気持ちになったりする、必要はないのです。
契約結婚のお相手を募集するケースも
また、契約結婚を求めている人は、自分が結婚後の条件を掲げて、相手を募集する事もあります。
もちろん、この行為も違法ではないのです。
例えば、最近若者中心に流行っているシェアハウスの住人に対して、「こんな条件ですが、私と結婚しませんか?」などと募集を募るケース。
それに納得した異性が、契約結婚に同意し結婚生活をスタートさせるという形です。
今までの結婚のスタイルでは、ちょっと考えにくい行為ですね。
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契約結婚を希望することを伝えるときは慎重に
かなり一般的になってきたとはいえ、日本では契約結婚の認知度はまだまだ低く、結婚を考えている相手に突然「婚前契約書を作成したい」と伝えると、相手が困惑してしまう可能性があるので注意が必要です。
「契約結婚をするなんて、自分は信頼されていないのだろうか?」と不安になってしまう人もいるでしょうし、最悪の場合、破談にもつながりかねないからです。
双方が契約結婚を望んでいる場合は問題ありませんが、一人が難色を示している場合にはお互いに納得いくまでじっくりと話し合う必要があります。
契約結婚という考え方がまだ広く浸透していない日本の現状を踏まえて、慎重に行動していく必要があるといえるでしょう。
婚前契約書は二人で作る
婚前契約書を自分一人で作成したうえで、相手に同意を求めるのはやめておきましょう。
相手がその形を強く望んでいたり、一人が作成したものを元に必要に応じて追記や修正を二人で行うのなら構いませんが、婚前契約書を作成して一方的に相手に認めさせるのは絶対にNG。
婚前契約書は、あくまで二人の合意のもと作成すべきものです。
一人で作ったものをもう一人が了承する、というのは合意ではありませんね。
契約結婚において、結婚する二人は対等な関係にあるはずですから、婚前契約書は最初から二人で作りあげていくのがベストです。
婚前契約書の内容は定期的に見直そう
二人の生活環境や状況の変化にともなって、当然ながら婚前契約書の内容も変更・追加が必要になってきます。
婚前契約書に書かれた内容を取り消すことは難しいと述べましたが、それはどちらかが一方的に取り消しを望んでいる場合のこと。
婚前契約書の最後に「本契約書は、夫と妻で協力して3年ごとに見直します。」などの一文入れておくことで、二人で定期的に更新していくことは可能になります。
契約結婚を解消するときは?
契約結婚を終了させるときは婚前契約書に従って「〜をしたら離婚する」という項目通り離婚することができます。
事前に条件を定めているので、婚前契約書がない場合に比べて離婚でもめる確率は低くなりますね。
結婚したときに婚姻届を提出している場合には、離婚届の提出が必要になります。
また、事実婚であれば事務的な手続きもほとんど不要ですので、離婚することによる揉め事はかなり軽減されるでしょう。
契約結婚のメリット・デメリット
ここまでの契約結婚について解説してきましたが、それらをまとめると次のようなメリットやデメリットがあることがわかります。
全てを理解し、お互い合意の上で臨む必要があるでしょう。
- お付き合い中に浮気癖のある男性に釘打ちができる
- 経済的、性的な束縛にストレスを感じない
- 恋愛はしたくないけれども、社会生活上、結婚というスタイルがとれる
- 介護や育児などの問題にスムーズに対応できる
- 離婚時にもめることなく、離婚しやすい
- 周囲の理解を得にくい
- 二人の幸せなムードに水を差す可能性がある
- 結婚後に契約を取り消す事は認められない
まとめ
日本ではまだ認知度が低く馴染みの薄い契約結婚ですが、こうした事前の取り決めをしておくことで結婚後のあらゆるトラブルを防止して、心穏やかに結婚生活を送る事ができるのです。
「今の結婚制度や考え方に疑問を感じている」
「結婚はしたいけれども、結婚後のトラブルでイザコザを長引かせたくない」
このように、法律婚に対して抵抗を感じている部分がある人にとって契約結婚は最適なスタイルだと言えるでしょう。
結婚後に生じる夫婦のトラブルにより修羅場を迎える場合もあることを考えると、条件をつけた契約結婚の方が穏やかで後腐れない結婚生活が送れるかもしれません。
法律的に問題なく2人やその家族が円滑に生活できるのであれば、契約結婚は魅力的なものだと言えるのです。